私は赤ん坊を殺しかけたことがあります。

私は幼い頃から、

「お前、聞いているのか!?」と

頰や頭を叩かれていた。

 

それを回避する策なのか、

ヒトの話を

「真剣なフリ」をして聞くようになった。

 

フリだから、

話が頭の中に入ってこない。

「また聞いてない!」と叩かれる。

 

そもそもカラダの中に

「私」がいることが少なかったように思う。

幽体離脱がデフォルト。

 


そんな状態だから更に

「ボーッとしてるんじゃない!」と叩かれる

 


痛みを感じないように

また

幽体離脱

夢と現実の境目が曖昧。

 


高校2年の時は、

歩きながら失神してた。

 


40代になって、

心理カウンセラーに

「それは解離状態」と言われた。

 


私は25歳で結婚した。

交際時から夫は酒乱だった。

 


酒を飲んでない時に、

催眠術師のような声で、

優しく穏やかに、

時には低い声で脅したりいなしたりしがら、

毎日毎日、

あらゆる言葉と声色と態度と表情を用い、

私を洗脳する。

 


「お金だけが幸せじゃないでしょう。」

「親に心配かけるんじゃない。」

「俺が仕事してないなんて言ったら、

    うちのお母さん心配して大変だから。

    北海道からすっ飛んでくるよ。具合悪くなるかもしれない。」

「あんたのお母さんにも、心配かけたらダメだよ。お父さんだけで手一杯でしょう。

親不孝しちゃダメだよ。もう俺たちは自立してるんだから。」

 


酒を飲んでは人格が豹変し、

暴れて家中の壁に穴が開いた。

 


首の座らない赤ん坊を、

手で縫った手作りのおぶいひもにくるんで

背中におぶい、

 


「殺される、殺される。」と呟きながら、

 


深夜の車通りの多い車道を

自転車で実家に逃げた。

 


実家には「旭川からカニ貰ったから持ってきた」と嘘をつき、

両親には、

何も言えなかった。

 


その長女が生後4ヶ月から4才くらいまで、

ステロイド副作用の重症アトピーだった。

1歳過ぎて発した言葉が、

「ママ」「まんま」の次は、「かゆい」だった。

 


次女を妊娠中の頃は、

断乳を勧められていたが、

長女が毎晩泣くので、

身体を掻き毟る手を私が押さえながら、

代わりにさすり、

母乳をあげて泣きやませていた。

 


出産後、酒を飲んだ夫が

20kgもある天然木のテーブルをひっくり返した。

それがガラス戸にあたり、

産まれたばかりの赤ん坊の上に

ガラスの破片が降り注いだことがあった。

 


その日を境にだろうか、

 


子供達の眼の前では、

夫は暴れなくなったが、

自分の部屋から怒鳴り声が聞こえてくる。

 


長女が2歳から3歳になるころ、

ステロイド副作用から

抗生物質の副作用が続き、

医師からは入院しないと

死ぬよと言われたほど劇症化したが、

 


入院したらステロイド点滴をすると言われ、

ステロンドの副作用で苦しんでいるのに、

更に薬漬けになるのはゴメンだと、

ステロイドを身体から抜く、

長野の有名な温泉を取り寄せて飲む、

飲泉療法に切り替えた時期。

 


全身の皮膚が膿んで、

背中に貼り付いたシーツを、

朝バリバリと剥がす。

一緒に薄皮が剥がれて、

部屋中にバラバラと粉が舞う。

 


毎日毎日「かゆいよー、かゆいよー」と泣き、

自分の左手首を右手で掻き毟る。

可愛い小さな手首の上に、

異様に大きなぶ厚いかさぶたが乗っかっている。

アトピー用手袋をしても自分で外してしまい、

掻き毟る、膿み、

また大きなぶ厚い、かさぶたになる。

 


毎日1時間しか寝ていない。

一日中意識が朦朧としている。

 


「明日仕事なんだから寝かせてくれよ!〇〇が可哀想だろ、泣かせるんじゃない!!!!」

 


最初は優しい口調が、

日に日に強くなり、

ついに怒鳴り声が普通になった。

 


「静かにさせなくちゃ、

    静かにさせなくちゃ、

    静かにさせなくちゃ、

    殺されちゃう、

    殺されちゃう、

    殺されちゃう、」

 


頭が真っ白になる。

 


娘の声が夫に届かないように、

頭をふわりと包むように、掛け布団を掛けた。

 


枕を掴んだ。

 


「キーーーーーーーーーン」

耳鳴りでハッと気が付いた。

 


急いで枕をどけると、

「プハァ」と息を吸う娘がいた。

 


息ができるようになった娘は、

また掻きやすい腕を掻き毟る。

 


わたしは、

娘をかきいだき、

声をあげずに号泣しながら、

娘のただれた腕を舐めた。

 


ザラついた薄皮が剥がれて、

舌にまとわり付く。

 


動物の母親のように、

しかし狂った人間のように泣きながら、

 


ひたすら舐めた。

 


温泉を飲ませ始めてから10日目に、

あの真っ黒なぶ厚いかさぶたがぼろっと取れて、

本来の真っ白なもちもちの肌が露われた。

 


4歳頃には、完治した。

9歳で離婚し、

 


今長女は23歳、

抜けるような白くきめの細かい肌は、

元重症アトピー患者とはわからない。

 


まだ当人を殺しかけた話はしていない。

 


いつか話すことがあるかもしれない。

 


父親が娘を虐待死させた事件で、

共犯とされた母親である、

船戸優里さん。

 


代理人の依頼で証言をした、 精神科医のツイートを読んで、思うことあり、

私がここに記したように。